「今週の1on1、何を話そう」。前日にネタを探して、当日は近況と進捗をひととおり確認し、あとは沈黙。「特に問題なさそうですね」で終わる。1on1を続けているマネージャーなら、一度は通る道じゃないでしょうか。

以前、1on1の質を高める週報活用術で、この解決策として週次報告を事前に読んでおく方法を書きました。実際これは効き、近況確認は数分で済むようになりました。

だからこそ、人によっては話題が尽きることがありました。しばらくして、それが起きるのは、こちらの引き出しが空になったときだけだと気づきます。相手が話したいことを持ってきていれば、私のネタは要りません。「話すことがない」は、議題を毎回こちらが用意していることの症状でした。

だとすれば、増やすべきは話題ではありません。議題を出す側を、少しずつ相手に変えていくことになります。この記事は、そのために何をやってきたかの話です。

冒頭の一問と、そのあとの沈黙

やることは単純で、冒頭で「今日、話しておきたいことある?」と聞き、答えが返ってくるまで黙って待ちます。事前にチャットで同じ問いを投げておけば、当日その場で考えさせずに済み、出てくる話の質も上がります。ただし、それでも当日の一問と沈黙は省けません。

難しいのは待つほうです。5秒の沈黙は長く感じるので、たいてい耐えられずにこちらが喋り出します。そうすると1on1は「上司に呼ばれて報告する場」に戻り、相手は次回も何も用意してきません。

最初の数回は「特にないです」が続きます。それが普通で、ここで諦めずに待てるかどうかが分かれ目です。効いているのは、その日の答えの質ではなく、同じ問いを聞いて待つことを何度も繰り返す、という反復そのものです。それが「ここは自分の議題を持ち込める場だ」という学習になり、待てた回に限って「そういえば」から話が出てくる手応えにつながります。

空振りの期間をどう埋めるか

相手が議題を持ってくるまでの数週間は、こちらが場を持たせることになります。手持ちの話題を使うと、出てくるのは直近の業務の話だけになり、それは進捗確認になります。進捗確認は相手に「ここは報告する場だ」と教えてしまい、空振りを埋めたつもりが原因を強化することになります。

そこで、話題を業務の現在から意識的に外します。業務・個人・組織を、過去・現在・未来と掛け合わせた9マスです。

過去 現在 未来
業務 先月のトラブルの後始末 いま詰まっているところ これから決める技術選定
個人 うまくいった経験 いまのコンディション この先のキャリア
組織 チームに根づいた慣習 いまの人間関係 採用や育成の見通し

進捗確認は、業務の現在という一マスにすぎません。残りの8マスは、こちらから振らない限り出てこない話で、振ること自体が「聞いていいんだ」という合図になります。

どのマスをまだ渡していないかは、記録を見れば分かります。1on1のメモを毎回同じ項目で残しておくと、書けなかった項目がそのまま次に振るべき話題になります。

  • 業務
  • キャリア
  • コンディション
  • 伝えたこと
  • 次までにやること

キャリアの欄が3回続けて空白なら、次はそこを振る。空白が次の議題を教えてくれます。

なお、9マスのうち業務の3マスと、個人のいまのコンディションは、週次報告を読めば埋まります。残りは1on1で聞くしかありません。週報の読み方は1on1の質を高める週報活用術に書きました。

議題は、次があると分かっているから貯まる

相手が「そういえば」を持ってくるには、思いついたことを貯めておいてもらう必要があります。貯めるかどうかを決めるのは、次の1on1が確実にあると思えるかどうかです。

月1回だと、思いついた話は次まで持ちません。急ぎならチャットに流れ、急ぎでなければ忘れられて、結局1on1には出てこない。だから枠は短くして、頻度を上げるほうが機能します。週1回15分なら、前回からの差分だけを見ればいいので足ります。

そのうえで、唯一の規律として大事なのがスキップしないことです。予定が重なったときは中止ではなく、同じ週の別の枠へ動かします。忙しいからやめるを一度許すと、流れるかもしれない場に議題を用意する人はいなくなります。15分なら、動かす先も見つかります。

出てきた議題を、潰さない

議題が出てくるようになると、次はそれをどう受けるかの問題になります。ここでの応じ方を間違えると、相手は次から出さなくなり、冒頭の一問はまた空振りに戻ります。

同じ15分でも、その場ですべきことは毎回違います。次の5つに分けて考えると整理しやすくなります。

その場ですること どんなときに使うか
教える 相手がまだ知らない手順を、分解して渡す
事実を伝える 起きたこと、やったこと、その影響の順に話す
問いで引き出す 相手の中に答えがあるとき、目標と現状を確認する
経験を渡す 正解がないとき、自分の失敗談を選択肢として出す
受け止める 弱音が出たとき、否定せず解決を急がない

判断の基準は一つで、答えを持っているのが自分か相手かです。相手が持っていないなら渡す、持っているなら問いで引き出す。

間違えたときのコストは、その場では終わりません。未経験の領域で手が止まっている相手に「どうしたらいい?」と問い返せば「聞いても何も出てこない」と学び、弱音に解決策をかぶせれば「言わないほうがまし」と学びます。どちらも、次の議題が出てこなくなる形で返ってきます。

「まあまあです」しか返ってこないとき

議題が出てこない理由は、隠しているからとは限りません。自分の状態をまだ言葉にできていないだけのことも多く、「最近どう?」に「まあまあです」と返ってくるのは、その表れです。

このときは、言葉の代わりに数字を借ります。

  • 「いまのコンディションは10点満点で何点?」と聞く
  • 高ければ「何がそうさせているのか」を聞いて、再現できるようにする
  • 低ければ「あと1点上げるには何が要るか」を聞く

「なぜ低いのか」ではなく「1点上げるには」と聞くのがコツです。原因を探す問いは過去へ向かいますが、1点分を問う形なら打ち手の話になり、打ち手が言葉になった時点でそれは相手自身の議題になります。

尺度は、その場で作らなくてもかまいません。週次報告に自己評価の項目があるなら、毎週使われているものをそのまま借りられます。

週次報告の評価入力欄。ストレス度・タスク遂行の難易度・タスク目標の達成度を5段階で自己評価する 週次報告の自己評価。同じ尺度を1on1でも使えば、その場で物差しを説明するところから始めずに済む

議題を預けてもらえるかは、過去で決まっている

ここまで書いたことは、相手がこちらに議題を預けてくれる前提で成り立っています。預けるかどうかは、その日の聞き方ではなく、こちらの過去の振る舞いで決まっています。

大事なのは次の3つです。

  • 前回のメモを見返してから臨む:準備なしで座ると、話はほぼ確実に進捗確認へ落ちます
  • 前に聞いた話を覚えている:「前回悩んでいた件、あれからどう?」の一言が、関心の証明になります
  • 約束したことをやる:動けなかったなら、動けなかったと次回に報告する

どれも特別なことではありません。ただ、毎週続けているマネージャーは意外と少ない。「何を言っても大丈夫」は宣言して手に入るものではなく、この積み重ねの後から相手が決めることです。

議題を出す側が変わりきれば、こちらのネタ切れは起きなくなります。相手が話したいことから始まるので用意が要らず、空いた時間は目の前の相手を見ることに使えます。違和感に気づけるのは、余裕があるときだけです。

次の1on1で試せることを一つだけ。冒頭で「今日、話しておきたいことある?」と聞いて、返事が来るまで待ってみてください。最初は空振りしますが、それが移行の始まりです。